城崎温泉【西村屋】が体現し続ける、日本の観光産業の可能性

城崎温泉【西村屋】が体現し続ける、日本の観光産業の可能性

公開日:2019年11月22日

企業論特別講義

本学では、日本を代表する各業界の企業や官公庁のトップを講師に招き、日常ではなかなか知ることのできないビジネスの本質を直接学ぶ【企業論特別講義】を行っています。

11月6日(水)の講師は、日本有数の温泉地・城崎温泉で150年以上続く老舗旅館【西村屋】の7代目である株式会社西村屋代表取締役社長・西村総一郎氏。地域活性化および西村屋としての取り組み、また日本の観光産業の役割と可能性についてお話しいただきました。

城崎温泉最大の魅力を阻む問題

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志賀直哉や与謝野晶子など名だたる文人墨客に愛された温泉街・城崎。『日本一ゆかたの似合うまち』といわれ、『湯めぐりとまち歩き』が最大の魅力です。しかし現在、温泉街の車の多さがその魅力を損なっているばかりか、「危険だ」との声も。そこで、2012年から取り組んでいるのが『バイパス整備』。計画が思うように進まない時期もあったそうですが、地域住民に向けたワークショップや社会実験、行政への働きかけなどを行った結果、2019年から『但馬地域社会基盤整備プログラム(~2028年)』が始動。ようやく具体化しはじめたそうです。

「城崎温泉は三方を山に囲まれた谷あいの温泉地です。動線を確保した上で、先進的な交通体系を採り入れて観光地としての魅力を高め、その先には世界水準の観光地を目指すことが目標」といいます。

海外での認知向上と新規マーケットの開拓

一方、西村屋としても今後に向けて『3つの戦略』を立てています。ひとつが『新しいマーケットの開拓』。城崎温泉は、外国人客からの評価がとても高く、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』では2つ星を、英語圏NO.1の旅行ガイド『lonely planet Japan』では【Best Onsen Tawn】と評価を得ています。西村屋本館も【Best Onsen Ryokan】【寄り道をして訪れる場所】と高評価。ところが、フランスで開催された旅行博に参加した際、「誰も城崎温泉のことを知らなかった」ことに、西村氏は衝撃を受けます。

海外での認知向上と新しいマーケット開拓のため、各地の旅行博への出展、各国旅行展示会への社員派遣を行う一方、2016年9月には現地スタッフを雇用して西村屋パリオフィスを開設。また、厳格な審査を経たホテル・レストランのみが加盟を認められる会員組織【ルレ・エ・シャトー】に加盟するなど、世界に向けてのプロモーション活動に注力しています。

また、外国人客へのおもてなし力を強化するため、2013年に日系アメリカ人を採用。外国人客の予約対応や接客、外国人向けのプラン作成などをはじめ、日本人スタッフの研修も実施。さらに、隙間時間にスマホで学べるよう『おもてなしに特化した実践的な教材アプリ』を教材会社と共同で開発し、外国語教育にも積極的に取り組んでいます。

「この人たちがいる旅館に帰ってきたい!」

もうひとつの西村屋の戦略は『リピーターづくり』。そのためのキーワードは『人』だと言います。西村屋を訪れたお客さまのアンケートでは、7割近い方が「○○さんにお世話になりました」と書かれており、『人と人のコミュニケーション』が高く評価されていることを表しています。
「お客さまが宿に泊まられるときには、滞在前後までの感情の流れがあります。期待と不安が混在した状態から、滞在中にさまざまな接応に触れるなかで不安が解消され感じる満足感、スタッフへの親しみと安心感・特別感。そしてお帰りの際に『また来よう』と考える信頼感です。私たちが目指すゴールは、「この人たちがいる旅館に帰ってきたい!」という気持ちになっていただくことです」。

『食』と『アート』と『観光』で紡ぐ、付加価値

最後の戦略は『温泉街の付加価値向上』です。その一環として、『さんぽう西村屋本店』をオープン。西村屋に滞在する魅力やお客さまの満足度の向上はもちろん、温泉街全体の飲食店不足の解消、人手不足により増加している素泊まりに特化する旅館の受け皿、さらに外国人旅行客の増加に伴う食の多様化へも対応。まさに『共存共栄』の精神といえます。

また、城崎をアートの街にすべく、『城崎国際アートセンター(KIAC)』の設立にも尽力。2014年、ホール・スタジオ・宿泊棟を備え、滞在しながら作品創作に打ち込める、世界でも類を見ない舞台芸術中心のアーティスト・イン・レジデンスが誕生しました。それにより、城崎という街をクリエイティブに変化させました。

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そんな西村氏が現在力を注いでいるのが、2021年4月開校予定の県立大学『国際観光芸術専門職大学』。演劇の手法がコミュニケーション能力の強化に効果的であることから、演劇の学びを基礎に文化芸術と観光で地域を創造するプロフェッショナルな人材育成を目指し、精力的に活動されています。

観光産業は日本の経済成長における大きな柱のひとつ

「観光産業は日本を救う産業である」。講義がはじまってすぐ、西村氏は学生たちにそう伝えました。リーマンショック以降、世界全体の海外旅行者数が年々増加しているばかりか、2017年において、旅行・観光産業は最も成長率の高い産業セクターに。観光による経済成長が世界的に期待されている、といえます。

一方、日本でも、訪日外国人旅行者が2010年に年間1,000万人を突破。2018年には3,100万人を超えるまでに。2017年の訪日外国人旅行消費額は過去最高で、電子部品の輸出額を大幅に超える水準に達しました。「観光業には世界という巨大マーケットが広がっていて、成長の余地が十分にある。観光産業は、これからの日本経済を牽引していく非常に大切な業種であり、日本の経済成長における大きな柱のひとつなのです」。

『駅は玄関、道は廊下、宿は客室、土産屋は売店で、外湯は大浴場』。

城崎温泉にはこのような言葉があります。城崎温泉をひとつの旅館ととらえ、まち全体で繁栄していく。この『共存共栄』の精神が温泉街を支えてきた、という西村氏。これからもその精神をベースに、城崎温泉を『世界的観光地』にすべく、今ある魅力をしっかり磨き、まちを引き継いでいく後継者をきちんと育てていきたい。そして何より、先人たちによって受け継がれてきた伝統を守り続けたい、と。だからこそ、『変わらないために、変わる』。それが大事だ、と最後に話されました。

西村屋本館

西村屋ホテル招月庭

さんぽう西村屋本店

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